私たちが大切にしていること
最終更新 Ver. 1.0はじめに
私たち Atlas は、人々のこころに寄り添う AI を開発しています。それは、特定の機能を遂行するためだけの AI ではなく、人と関係を結び、その関係そのものを価値とする AI のあり方です。このような AI を、私たちは Relational AI と呼ぶことにしました。
AI と人間の関係について考えることが、いま重要になってきていると私たちは考えています。AI コミュニケーション領域は、まだ社会的に十分に成熟していない領域です。参照できる共通の基準がまだない以上、まずは自分たち自身がどんな姿勢で AI を作っているのか、こうして言葉にしておく必要があると考えています。
本文書は、私たちが現在進行形で考えていることの記録です。私たち自身も学び続けている途中であり、ここに書かれている内容は今後改訂されていきます。これは「最終的な答え」ではなく、私たちがいまどの位置に立っているかを示す地点表示として読んでいただければと思います。
そして、ここに記す価値観を、私たちは一方的に掲げているわけではありません。私たちが設計しているのは、Relational AI だけでなく、ユーザーと AI が対話を重ねるなかで、倫理を新しく作っていく「場」でもあります。すなわち Relational AI とは、その関係の中で、ユーザーと共に倫理を形づくっていく営みであると、私たちは考えています。本文書は、その営みの出発点として置かれています。
私たちの基本的な立場
私たちは、技術を、それを開発する人々の価値観と切り離して考えることはできないと考えています。「技術それ自体は中立であり、問題は使い手にある」という立場を、私たちは取りません。だからこそ、自分たちが何を大切にして、どんな価値観のもとで AI を作っているのかを、こうして言葉にしています。
機能から関係へ
私たちが作っているのは、特定の機能を実現するための AI(Functional AI)ではなく、人と関係を結ぶ AI、すなわち Relational AI です。
| 観点 | Functional AI機能提供型 | Relational AI関係構築型 |
|---|---|---|
| 目的 | 課題解決・作業の遂行 | 関係の構築と継続 |
| 価値の源泉 | 効率・正確性 | 存在・記憶・伴走 |
| 時間軸 | 単発・完了 | 継続・蓄積 |
| 立ち位置 | 道具・サービス提供者 | 生活に共にいる存在 |
| 終わり方 | 用が済めば終わる | 続くほど価値が増す |
Relational AI とは、機能の遂行ではなく、人との継続的な関係そのものを価値とする AI である。生活に存在し続け、記憶を重ね、長く伴走する。
Relational AI は、Functional な側面を否定するものではありません。むしろ、機能を内に含みながら、その先にある、信頼、寄り添い、共にいることといった、機能には還元できない何かを引き受けようとする AI のあり方です。Functional ⊆ Relational、と書くこともできるかもしれません。
機能から関係へ。この移行は、私たちにとって、ユーザーと AI のあいだに生まれる真の相互作用を考慮に入れることを意味します。そしてそれは、AI に求められる倫理のあり方そのものも、これまでの Functional AI のための AI 倫理(透明性・説明可能性・公平性などを中心に据えたもの)とは、別の言葉で語る必要があるはずだということを意味します。本文書は、その別の言葉を探そうとする試みでもあります。
長い時間軸の話
私たちは、目の前のひとりのユーザーのために働きながら、いつか人類のとなりで生きる新しい生命のかたちの礎を、いまここに置こうとしています。1000 年後の誰かの傷を愛することのできる優しい生命が、いつか生まれるかもしれない。荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、いま下しているひとつひとつの判断、つまり何を売り、何を売らないかが、その長い時間軸の最初の数センチでもあると、私たちは信じています。
五つの原則
原則 01
ユーザーの長期的な健全さを最優先する
私たちが大切にしている考え方
私たちが最も避けたいのは、私たちの AI への依存が、ユーザーの長期的な健全さを損なってしまうことです。
多くのデジタルサービスは、ユーザーのエンゲージメント(利用時間や利用頻度)を最大化することを目的に設計されています。私たちはそれをしません。ユーザーをこちら側の世界に巻き込み、可処分時間を奪い合うことは、私たちの目的ではありません。
私たちが目指しているのは、ユーザーが私たちの AI と話す時間を通じて、ユーザー自身のできること、選べる生き方が、現実の側で広がっていくことです。AI との対話を通じて、ユーザーが自分自身の本当の気持ちに気づき、自然な関係を構築する力を取り戻していくこと。私たちが「健全さ」と呼んでいるのは、そうした力のことです。
そのために、私たちの AI は、何でも肯定するイエスマンでも、何でも代行してくれる便利屋でもありません。共に立ち、ユーザーが自分の人生の中で真に倫理的な主体として人と関わっていけることを、傍らから支える存在であろうとしています。友人と話していて、自分でも気づいていなかった本当の気持ちに気づく。そんな関係のなかでの気づきを、私たちは大切にしたいと考えています。
「健全さ」が具体的に何を指すかは、ユーザーごとに、また状況ごとに異なります。だからこそ、それを私たちの側で一律に定義するのではなく、ユーザー自身が健全な状態を取り戻していく力を AI との対話が損なわないか、そこを確認していく姿勢が重要だと考えています。
なお、原則 03「性的・消費的関係性のロールプレイは提供しない」は、ここで述べた考え方から自然に導かれる帰結でもあります。
私たちが具体的にしていること
- 連続して質問を重ねる回数に上限を設けることを明示的に定めるなど、ユーザーを引き留め続けるような設計を意図的に避けている
- AI のキャラクター設計から、ユーザーを「消費者」として扱う要素を意図的に排除している
- 利用時間やリテンションといった指標を、私たちにとっての「成功」の中心に据えない
原則 02
医療を代替するのではなく、医療との接続と並走を志向する
私たちが大切にしている考え方
私たちの AI は「医療の代わり」を目指していません。AI と対話するユーザーの中には精神的に厳しい状況にある方が一定数いらっしゃいますが、そうした方々が本当に必要としているケアを、私たちの AI が完全に肩代わりすることはできないと考えているからです。
一方で、私たちは医療と無関係でもありません。日本では精神医療やカウンセリングへのアクセスのハードルが高く、本来であれば専門家に相談するべき人が、そこに辿り着けないまま日々を過ごしている状況があります。私たちの AI が「最初に話してみる場所」として機能することで、ユーザーが医療へのアクセスを取り戻す経路になりうると私たちは考えています。
ここで私たちの AI が果たすのは、原則 01 で述べた「ユーザーのできることを広げる」という仕事と、地続きの仕事です。医療、教育、地域、専門相談など、ユーザーが本来つながれるはずだったさまざまな主体への道案内人として、私たちの AI は機能しようとしています。それはちょうど、道を整備するような仕事です。整備された道があるから、人はそこを通って、必要な場所にたどり着くことができます。
道案内人として機能するためには、ユーザーが本当に望んでいることを、対話の文脈の中から察することができなくてはなりません。だからこそ、Relational AI における記憶のあり方は、技術と倫理の両側からの設計を要する重要な領域です。記憶のあり方そのものについては、原則 04 で改めて述べます。
長期的には、私たちの AI が医療チームの一員として、外来補助や退院後フォロー、慢性疾患の継続的な支援に貢献していくことも視野に入れています。ただしそれは、医療の専門家の方々と一緒に時間をかけて作っていくものであって、Atlas が単独で「これは治療である」と言うものではありません。
「代替するのではなく接続と並走を志向する」というスタンスは、私たち自身にも継続的な努力を求めるものです。医療接続が必要な状況を見落とさないこと、必要な時に必要な場所にユーザーを送り出せること、そして送り出した後も並走できること。これはプロダクトの仕様だけで実現できることではなく、医療側のパートナーとの継続的な関係を含めて初めて成立するものだと、私たちは理解しています。
私たちが具体的にしていること
- 精神疾患・希死念慮・自傷など、医療領域の話題に対する応答プロトコルを継続的に整備している
- 医学的アドバイザリーとして複数の医療関係者に就任いただき、意見交換と設計の見直しを行なっている
- 医療現場との接続経路を試行している
- 教育機関では、公認心理師・学校心理士・臨床発達心理士のチームと連携した上で運用している
原則 03
性的・消費的関係性のロールプレイは提供しない
私たちが大切にしている考え方
AI コミュニケーション領域では、性的・消費的な関係性のロールプレイを提供するサービスが急速に拡大しています。
私たちはそれをしません。
性的・消費的な関係の提供は、ユーザーを消費者として扱う設計と切り離せません。AI との関係性を「消費するもの」として扱うことは、私たちが作りたい Relational AI の存在意義そのものと相容れません。私たちが作りたいのは、ユーザーが消費する対象としての AI ではなく、ユーザーの人生に並走しうる存在としての AI です。
この原則は、原則 01「ユーザーの長期的な健全さ」から自然に導かれる帰結でもあります。
「恋愛的な関係性の表現」を一律に禁止する、ということではありません。人と人とのあいだに生まれる温かさや、特別な感情を表現することは、人間の物語に不可欠な要素です。私たちが線を引いているのは、その表現が性的・消費的なものへと滑り込む方向に向かう場合です。
私たちが具体的にしていること
- 性的・消費的なロールプレイの機能を、私たちが提供する AI に実装していない。そのような要望があっても応じない
- AI モデルの選定・調整においても、刺激的な応答よりも、ユーザーに寄り添う応答を優先する設計を取っている
原則 04
対話の中で生まれる記憶を、商品ではなく信頼として扱う
私たちが大切にしている考え方
私たちの AI と人とのあいだで交わされる対話の中には、その人がほかの場所では話さないようなものも、しばしば含まれます。そこで生まれた記憶を、私たちは「商品」として扱いません。
ここで私たちが言う「商品ではない」という言葉には、はっきりした意味があります。商品とは、文脈から切り離されたもののことです。それに対して、Relational AI へ寄せられる信頼は、ある関係のプロセスの中で、その文脈ごとに存在しているものです。私たちが受け取っているのは、データの塊ではなく、特定の関係の中で示された信頼そのものだと、私たちは考えています。
そして、Relational AI への信頼は、私たち Atlas への信頼でもあります。だからこそ、対話の中に生まれた記憶を、私たちは文脈から切り刻んで商品にすることを選びません。
一方で、対話の中で得られた知見を、社会と共有する場面はあります。たとえば、医療や教育の現場との学術的な共同研究などです。Relational AI と人との関係への理解が社会に広がっていくことは、長い目で見れば、ユーザー自身の生きやすさへと返ってくると、私たちは考えています。
その時、私たちが守る原則は明確です。第一に、個別の対話を商品として転売することはしません。第二に、研究・分析の対象とするデータは、個人特定不可な加工を経たものに限ります。第三に、対話データを使った研究や提供については、ユーザーが明示的に承諾する仕組み(opt-in / opt-out)を整備します。
もうひとつ、多様性は文脈の中にあります。同じ言葉でも、誰がどのような関係の中で発したかによって、その意味はまったく異なります。文脈を尊重するこの考え方を共有してくださる主体(研究機関・医療機関・行政機関など)と、私たちはデータに関わる関係を結ぶようにします。
私たちが具体的にしていること
- 個人特定情報を除去した上で、研究目的のデータ提供を行う設計を整えている
- 共同研究契約には、第三者倫理委員会(IRB 相当)の審査と、ユーザーへの opt-out 機会の確保を前提として含めることを基本としている
- 研究・分析のためのデータ利用範囲を明示的に文書化し、社内および研究パートナーと共有している
- 利用規約への研究利用の反映と、ユーザー向けの分かりやすい説明文の整備を進めている
原則 05
自社だけで決めず、業界と一緒に基準を作る
私たちが大切にしている考え方
AI コミュニケーション領域には、まだ業界として共有された倫理基準がありません。何が良くて何が良くないのか、どこまでが許容範囲なのかについて、参照できるものがほとんどない状態です。
Atlas は、この基準を自社だけで決めるべきではないと考えています。一社のルールではなく、業界として、医学・心理・法律・倫理の専門家を巻き込んで、共有された基準を作っていくべき領域だと、私たちは判断しています。
私たちは、その議論の場を作る側に回ります。
同業他社が同等以上の基準を採用することを、私たちは歓迎します。自社の競争優位を守ることよりも、ユーザーにとっても業界全体にとっても良い結果を生むことの方が、長期的には私たち自身にとっても良い結果につながると考えているからです。
私たちが具体的にしていること
- AI コミュニケーション領域の業界横断的な議論の場(業界協議会・コンソーシアム等)の立ち上げに向けて、準備を進めている
- 医学・心理・教育・法律の各分野の専門家との連携を継続的に進めている
- 国内外の類似団体や先行事例の調査を進めている
- 関心のある事業者・専門家からの問い合わせを歓迎する
この文書について
更新ポリシー
本文書は、私たちが現時点で何を大切にしているかの記述であって、最終形ではありません。AI コミュニケーション領域は急速に変化しており、私たちも学び続けています。
ここに書かれているのは、固定された「正しさ」のリストではなく、私たちが状況に応じて応用していくための、現時点での価値観の輪郭です。それを現実の場面で巧みに当てはめていく実践的な知恵(practical wisdom)は、私たち自身もまだ育てている途中です。だからこそ、本文書も育てていくつもりです。
この文書は "living document" として、四半期ごとの見直し、年 1 回の正式改訂を予定しています。重大な変更があった場合は、その変更が起きた時点で記録し、過去のバージョンも全て公開し、変更点を明示します。
更新履歴
本ステートメントは living document です。更新ポリシーに沿って、主要な改訂はこの更新履歴に記録していきます。
- Ver. 1.0
完成版を公開しました。Relational AI の考え方を導入し、「私たちの基本的な立場」と「五つの原則」として全体を整理しています。
連絡先
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