AIアシスタントの記憶基盤とは?日本で使われ続けるAIを考える

AIアシスタントの記憶基盤とは何か。日本語の継続対話で確かめたい情報の更新・取り出し・応答品質と、Atlas Memory、ねこやまさんの公開済みの取り組みを紹介します。

AIアシスタントの記憶基盤とは、利用者との過去のやりとりや希望を保持し、必要な場面で取り出し、変化に応じて更新する仕組みです。前に伝えた条件をもう一度説明せずに済むこと、希望が変わったら次の提案にも反映されること。こうした体験をつくるために、記憶をどう扱うかが開発上の課題になります。

Atlas株式会社は、東京都目黒区に本社を置き、記憶基盤「Atlas Memory」と、LINE上のAIの友だち「ねこやまさん」を開発・運営しています。継続的な対話を扱う立場から、この記事では、AIアシスタントの記憶の役割と、日本でサービスを開発・導入するときに確かめたい点を整理します。Atlasの会社概要

会話履歴を次の会話で使うために

記憶の設計では、いま進んでいる会話の文脈と、別の日にも引き継ぐ情報を分けて考えると整理しやすくなります。AIエージェント開発基盤のLangGraphも、一つの会話内で使う短期記憶と、会話をまたいで保持する長期記憶を区別しています。LangChain公式ドキュメント「Memory overview」

たとえば、利用者が以前「外出の予定は午前中がいい」と話し、その後「勤務時間が変わったので、今月は午後がいい」と伝えたとします。次に外出先を提案するAIには、午後という新しい条件を使い、その条件が「今月」に限られることも扱ってほしいはずです。

この例だけでも、開発時に決めることがいくつかあります。どの発言を記憶として残すか。いつの発言で、いつまで有効なのか。以前の情報と食い違ったときに、更新するのか、本人に確認するのか。そして、どの相談で取り出すのかです。

一度伝えた好みを、すべての場面で使う必要はありません。相手が求める応答に役立つ情報を、その時点の条件に合わせて渡す。記憶基盤には、この取捨選択まで含めた設計が求められます。

日本語の会話では何を確かめるか

日本向けのAIアシスタントを開発するときは、実際の利用場面に沿った対話で品質を確かめる必要があります。

たとえば、「今は大丈夫」という返答をどう扱うか。その場の提案を断ったのか、しばらく提案してほしくないのかは、直前のやりとりによって変わります。曖昧な返答から恒久的な好みを決めつけず、必要なら確認する設計が考えられます。敬語や親しさの程度も、企業の窓口と、日常の話し相手では求められるものが違います。

そのため、対象とする利用者、サービスの役割、過去の会話を含めて評価することが重要です。

現地での実装経験を重視する動きもあります。Sierraは2026年3月のOPERA TECH買収発表で、日本の大手企業を支援してきた経験と顧客関係を評価点として挙げました。日本でサービスを成立させる経験も、提携先の選定材料になっています。Bret Taylor・Clay BavorによるSierra公式発表、2026年3月27日

日常の接点とAI技術をどう組み合わせるか

AIが利用者の状況を理解するには、どのサービスを通じて、どんな情報を受け取るのかも重要です。

TimeTreeとSK Telecomは2025年9月、資本業務提携とAI機能の共同開発を発表しました。TimeTreeの発表では、予定情報と利用者基盤が評価されたと説明しています。予定を共有する日常の接点に、AIアシスタントの技術を組み合わせる構想です。TimeTree公式発表、2025年9月8日「提携の背景」

予定管理なら、日程や参加者、移動の条件が提案に関わります。継続的な対話なら、以前の相談や、本人が大切にしていることが次の会話に関わります。扱う情報も、役立ったかどうかの確かめ方も、サービスによって異なります。

対話で相手を理解できることが、予約や買い物の成功にどこまでつながるのか。用途を広げる際には、その用途で改めて検証する必要があります。

Atlasは継続的な対話から記憶を研究している

Atlasが運営する「ねこやまさん」は、LINEで日々のできごとや気持ちを話せるAIの友だちです。対話の中で出てきたことを記憶し、別の日にも話を続けられるように設計しています。累計対話件数は1,415,451件です(2026年9月28日集計。利用者とねこやまさん双方の可視メッセージ数)。ねこやまさんの製品説明

この対話を支える技術がAtlas Memoryです。Atlas代表の宮﨑悠生は、公開記事で、複数のAIモデルへの処理の分配や、記憶の圧縮・忘却・再構築を設計する中間層について説明しています。モデルに何を渡し、どの文脈を残すかを、継続的な関係を支える技術として研究しています。宮﨑悠生「Relational AIの未来地図」、2026年7月30日「Relationalを支えるAI技術」

自社サービス以外への展開として、2026年8月には松実高等学園と、ねこやまさんの基盤技術を使った学園専用AIキャラクターの導入に向けた取り組みを発表しました。生徒・教職員とともに、学園だけのキャラクターをつくる計画です。Atlas・松実高等学園の発表、2026年8月25日

記憶基盤を選ぶときに比較したいこと

企業がAIアシスタントに記憶機能を組み込む際は、採用するモデルと利用場面を決め、候補の仕組みを同じ条件で比較すると判断しやすくなります。以下は、導入時に使える評価項目の例です。

評価する点確かめる場面
必要な記憶を取り出せるか別の日の会話で、以前に伝えた条件を使えるか。記録のないことを知っているように答えないか
変更や期限を扱えるか希望の変更や一時的な条件を伝えた後、古い情報に戻らないか
会話への出し方が適切か今の相談に関係のない個人情報を持ち出さず、必要な確認ができるか
運用を続けられるか品質に加えて、応答時間、費用、訂正・削除の扱いを確認できるか

そのうえで、利用者が同じ説明を繰り返す負担が減ったか、相談や用事を終えられたか、継続して使いたいと感じたかを確かめます。記憶を取り出せることと、サービスの価値が高まることの両方を見るためです。

Atlasは、本人が記憶を所有し、任意のAIから利用できるようにする「Life Memory as a Service」の構想も公開しています。Life Memory as a Serviceの構想

開発の相談を始める段階で、「過去の条件を翌週も使えるか」「本人が訂正したらどう更新するか」といった会話例を共有できれば、記憶基盤に任せる部分と、自社のアプリで設計する部分を具体化できます。その条件に沿って、組み込める範囲と評価結果を確認していくことが、開発パートナーを選ぶ際の判断材料になります。